
A&S
1970年創業。
福島県郡山市大町にある福島県唯一のジャズ喫茶。
僕が高校時代毎日のように通った、
いわば青春の玉手箱。
この店で僕はジャズに出会い、
ジャズとそれに連動して文学にのめり込んでいった。
店のマスターからジャズの体系がわかりそうな本を選んでもらい、
歴史書から名盤ガイドみたいなものまで調べて、
東京に来る度にレコードと本を買いあさる、
そんな高校時代だった。
そしてこの店はそんな青春時代の大いなる象徴だった。
東京に出てきてからも、
帰省の度に顔を出し、
近況報告と昔話にマスターと花を咲かせていた。
帰省したときに店に顔を出すと、
同時期に帰省したかつての同級生がやっぱり顔を出していて、
またこの時期になると会うね、なんて二言三言言葉をかわす。
いつの日か、
マスター、僕もとうとう人生が決まりそうです、
と言える日が来るのだろうなんてことをぼんやりと夢想していた。
僕が十代を過ごした日々がどれだけ遠ざかろうと、
この店だけは、時間の経過を拒否するかのように、
いつもいつも僕が行っていた時のままの姿で僕を迎えてくれた。
あの頃とまったく変わらない店内。
カウンター、僕がいつも座っていたテーブル、
タバコのヤニがこびれついた壁、
僕の10代と全く変わらない。
この店を訪れる事が、
僕にとっては見失いかけた自分のオリジンを確認し、
そして帰京後の活力になっていた。
この店が閉店する事を知ったのは、去年の年末にこの店を訪れた時のことだった。
40年以上続いた店の歴史にピリオドを打ち、マスターはリタイアするそうだ。
いろんな想いが僕の中を駆け巡った。
偶然の符号なのだが、僕は今年30才になる。
青春の恥ずかしきも切ない思い出が、
20代の終焉と時を同じくして文字通り記憶の1つとなってしまうのだ。
それは1つにはショックであり、
1つには僕の未来であった。
自分のオリジナリティに遡行する場所が永遠に失われていくことの寂しさ、
そして時間は無情にも流れ行くという現実を真っ正面から受け取り未来へ開拓する気概。
ものすごくたくさんの事柄を考えさせる年末年始だった。
高校を卒業し、東京に移住する際に、店で撮影した僕の写真を、
記念にと店の壁に残して来た。
もうさいごだから、とそれをもらってきた。
この文章を書いている僕の横にそれはある。
ヤニで黄色く変色した印画紙の向こうには、
当時の屈折した僕の姿が映っている。
それは音楽や文学や女の子ありさえすればもう何もいらない!
と卒業文集で言い切った僕の姿だ。
そんな事にかぶれていた僕は、
行きたかった大学の複数の学部に合格したとき、
美学美術史学専攻がある文学部に進学することを決めたのだった。
巡り巡ってロースクールに行く事になったが、
悔いはなにもない。
自分で決めた方向性、
これは僕自身の力で全うさせなければならない。
これまで、そしてこれからのことを考えさせてくれた、
それが「エーエス(と僕は呼んでいた)」の閉店が僕に与えた影響である。
6月11日が最終営業日だそうです。
郡山に行く機会がおありの方々はどうぞお立ち寄りください。
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